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徳島地方裁判所 平成10年(行ウ)10号 判決 1999年5月14日

主文

一  被告が平成一〇年一月一九日原告に対してなした川島町議会議員の除名処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事実の概要

本件は、被告川島町議会の本会議における一般質問において行った発言を理由に、除名処分を受けた原告が、その取り消しを求めた事案である。

(争いのない事実等―末尾に証拠の記載があるものは証拠によって認定した事実)

一  原告は、徳島県麻植郡川島町の住民であるが、平成八年一月二八日投票の川島町町会議員選挙において立候補し、その結果、川島町選挙管理委員会の判定は一票差の次点ということであった。しかしながら、原告が異議申立てを行い、徳島県選挙管理委員会が、右町選挙管理委員会判定で最下位当選となったAと同数得票であり、くじ引きによって当落を決する旨を決定をしたことから、Aが右県選挙管理委員会の決定の取消しを求めて提訴したものの、認められず、平成九年七月六日、くじ引きの結果、原告が当選人となり、以後町議会議員として活動してきた。原告の議員としての任期は平成一二年二月一〇日までである。

二  被告川島町議会は、定数一四名である。平成九年三月一四日、被告川島町議会の当時のB議長に対する不信任決議案が可決されたことにより、Cが議長に選出された(乙一四)。

被告川島町議会は、同年六月二四日、町の物品納入、工事請負等から、町議会議員の三親等以内の血族が経営する企業等を発注除外とする旨を要望する決議(以下、「三親等決議」という。)を行った(甲六四の一)。

同年一〇月一日、川島町同和対策課職員Dは、差別発言があったとして、教育委員会に異動することとなった。

なお、川島町議会会議規則は、「議員は、議会の品位を重んじなければならない。」と規定し(一〇一条)、第一三章「懲罰」において、懲罰の動議は、懲罰事犯があった日から起算して三日以内に、文書によって提出せねばならず、議会は委員会に付託しなければ懲罰を決定できないと規定している(一〇九条、一一〇条)(甲五)。

三  平成九年一二月川島町議会定例会は同月九日開会され、原告は、同月一二日、C議長に対し、質問事項を、<1>「町議会議員、町三役並びに教育長関連企業の物品納入、委託業務、工事請負等からの発注除外について」、<2>「般廃棄物の運搬及び処分の調査結果について」、<3>「川島町の施設の燃料及び自動車のガソリンの業者との契約並びにし尿処理施設業者との契約について」とし、<3>の質問要旨を「他の業者と湯浅石油との件」、「阿波衛生社とふじ清掃社との件」として、その旨書面で通告した上で、同月一六日の一般質問において、次のような発言を行った(甲一の1及び2)。

1  「それと、二番目の阿波衛生社と、これはし尿処理業者なんですが、阿波清掃社と富士清掃社との件でありますが、この件について阿波衛生社がこのごろの新しい施設を、でけた浄化槽にしたら大半が阿波衛生社との契約になっとるようで、富士清掃社とはあまり契約をしていない。その件についてお伺いしたいと思います。」

2  「ほんでまた、今度は湯浅石油との何を、湯浅石油の問題で、そういう周りのそうゆう保養センターのお風呂とか、そういうふうなもんには入っとらんのじゃが、ほのいう各課で検討するというても、各課で言うたら、今の車のガソリン入れよんは、同対課だけじゃというふうな総務課長のお答えじゃったけれども、湯浅石油で。ほなけども、やはりその、今の四月には六万七七二五円C、五月には一七万六四〇〇円Cと、こういうふうにして、ほんで六月には三三万五一六〇円川島石油と、これ読み上げていくと時間がかかるんで読まんけども、ずっうとこう周りになっとる。それについては湯浅石油が入っとらんのじゃけれども、これはどのように。その件をお願いします。」

3  (2の質問に対し、総務課長が「湯浅石油は、上桜保養センターは納入をしていない。今後各課とも十分連絡を密にして十分配慮したい。」旨答弁されたのを受けて)

「配慮をいたしたいということは、入れるということですか。配慮するということは入れるということじゃね、それを答弁願います。」

4  (3の質問に対し、総務課長が「配慮をしたいということは、納入をしていただくことになろうかと思うんですが、今後十分検討して配慮をしたい。」旨答弁されたのを受けて)

「私の解釈としては、入れるけれども、ほなけど十分検討してということは、検討期間がこれはっきりしないんですわ。そこのところがちょっとおかしいんじゃけれども、ほなけども、ちょっと横から言うのちょっとやめてもらうように、私が言よるんでね。検討する時間は極力短くして、早くそういうふうな湯浅石油も同じ仲間に、周りの同じ仲間に入れてもらうような方法に向けてもらいたい。」

5  「ほれから総務課長は、浄化槽設置敷設維持管理に出して、これは大分平成一年から二年あたりがこだま会館川島町老人ホーム、川島保育所あたりが、平成七年くらいまでは何が、阿波衛生社がして、ほんでまあ、浄化槽、立石公会所、奈良公会所ができたとき最初から。ほんで、勤労者体育センターができては一年だけは勤労者体育センターは、富士清掃がした。あとは阿波衛生社です。ほんで、今度は、平成八年度から阿波衛生社がね、これ川島東公民館、川島小学校、川小プール横、川島幼稚園と、これ一発に、こういうふうにして、もう阿波衛生社、E議員が湯浅石油のこと言うとるけん、ね。これ鴨島でないかと。鴨島でも社長は川島なんですよ。ほたらね、これは私は阿波衛生社の謄本取ってみたら。ね。最初の代表取締役はFで、まあこれも鴨島町<以下略>の人ですわ。その人も辞任し、またGっていう人がなって、ね、ほんでまた辞任し、今度は代表取締役Hという人が代表取締役になって、ね、この人たちの住所は、徳島県麻植郡<以下略>と、これ鴨島の業者なんですわ、ね。鴨島の業者が、今のちょっとおかしいんですよ。今の施主のさきの施主が何した川島町業者、業者育成のための周りと言うとるけれども、ね、これは川島町業者の回りにはならんわけじゃ、鴨島の業者じゃから。この人の仕事がどんどん公の、川島町の公の施設の契約をしとるわけなんです、ね。ほなけども、このことについては、私は余りもうさきの湯浅石油がこれ住所が鴨島じゃと言うたようなことで、このことには触れません。一応こうやって言うとくだけです。ほなけども、これは町外業者であることは確かなんです。」

6  「もう一つこれね、これは問題外のことですけども、質問外のことですけど、ちょっと言わせてもらいますけども。ついでじゃから。その業者が今現在近久の墓地を造成しとる。な。ほしたらそれについては、主は請け負う。ほんで、今度お墓の移転まで一括にせんかというて、同対課長に聞いたら、ね、その問題で人事異動があったような、それはけしからんこっちゃ、えせ同和行為に劣るこっちゃ、これは。解放同盟はえせ同和行為じゃ。はっきり言うたら。そんなことに町当局はあまんじとるわけじゃ。」

四  同月一七日、前日の原告の一般質問における発言につき、議会運営委員会が開かれ、同委員会の協議結果に基づき、C議長が原告に対し、発言の取り消しを求めたところ、原告がこれに応じなかったことから、I議員外一名により、「地方自治法一三二条には、議会の会議または委員会においては議員は無礼の言葉を使用し、または他人の私生活にわたる言論をしてはならないとし、また会議規則第一〇一条では、議員は議会の品位を重んじなければならないと規定されているにもかかわらず、原告の同月一六日の定例会における一般質問の中、『解放同盟はえせ同和行為だ』との無礼の発言をしたことは、同和問題解消に心血を注いできた人々を深く傷つけ、差別を助長する発言であり、議会の品位をも大きく傷つけた。」として、原告の発言に対する懲罰動議が提出された。そして、原告の弁明が行われた後、退場したB議員を除く一一名の賛成により、右懲罰動議は可決され、懲罰特別委員会に付託された(甲二、乙四)。

懲罰特別委員会は、同月二四日、テープで発言内容を確認した上で、原告の発言のなかで、<1>湯浅石油有限会社、ふじ清掃株式会社の業者名を出し、利益誘導型の発言をしていること、<2>同和対策課の人事異動に関連して「解放同盟は、えせ同和行為だ」との発言をしたことについて審議し、その結果、特にふじ清掃株式会社について、阿波衛生社を比較対象に出して、ふじ清掃株式会社を有利に導く発言は不適切である、同和対策事業関連課の人事異動について、団体からの要望は当然であるにもかかわらず「えせ同和行為におとるこっちゃ、これは。解放同盟は、えせ同和行為じゃ。」との発言は、団体に対する偏見を持った差別発言であると判断し、「『解放同盟は、えせ同和行為だ』との発言は、特定の業者に対する利益誘導と、団体に対する偏見があいまった差別発言であり、同和問題解消に取り組む国及び地方自治体の施策に逆行し、差別を助長せしめ、川島町の部落差別撤廃・人権擁護に関する条例にも反する発言である。また、原告の一般質問終了後及び翌日(閉会日)に、この発言に対する議長並びに同僚議員の発言の取り消しの要請にも応じず、議会閉会後も反省の色もない。これらの言動は、良識の府といわれる議会の品位を大きくけがし、その権威を失墜させたばかりでなく、万人に深い傷痕を残した。」などとして、原告に除名の懲罰を科することが相当であるとの決定を行った(甲三)。

平成一〇年一月一九日、平成一〇年川島町議会第一回臨時会が開かれ、懲罰特別委員会のJ委員長が右の内容の審査報告書に基づいて協議結果を報告し、原告の弁明や質疑が行われた後、B議員を除く一二名の賛成により、原告に除名の懲罰を科することが可決され、C議長は原告にその旨宣告した(以下、「本件除名処分」という。)(甲四)。

五  同年一月一九日、C議長は、川島町選挙管理委員会に、原告に対する除名の懲罰が議決されたことにより、川島町議会に一名の欠員が生じた旨、公職選挙法一一一条一項三号の規定により通知した(乙一)。

同月二三日、川島町議会議員一般選挙選挙会は、Aを繰上補充により当選人とし、同日、川島町選挙管理委員会は、その旨を告示した(乙二、三)。

なお、その後、Aの当選の効力に関し、公職選挙法(二〇六条、二〇七条)に定める異議の申出、審査の申立て及び訴訟の提起が行われたことはない。

六  原告は、同年二月六日、徳島県知事に対して、本件除名処分の取消しを求める審決の申請を行ったが、同年五月一日、申請は棄却された(甲七、一〇)。

七  Kは部落解放同盟(以下、「解放同盟」という。)川島支部長であり、その父Fは同鴨島支部長である。そして、GはKの兄である。

Kらは、株式会社森本工務店(本社川島)、有限会社森本組(本社鴨島)、有限会社森本工務店(本社鴨島)、株式会社太一興業(本社脇町)のほか、清掃会社である有限会社阿波衛生社(本社鴨島)を実質的に経営している。

株式会社森本工務店は、川島町の一九九六年度発注工事のうち、四割強を受注していた(甲一六の4)。また、川島町内のし尿処理業者としては富士清掃株式会社(なお、「ふじ清掃社」も同一会社である。)しかなく、従前は同社が川島町のし尿処理をすべて受注していたが、近時、阿波衛生社も受注するようになり、平成九年度には川島町のし尿処理の約四〇パーセント強を受注するようになった(甲六六、原告本人、被告代表者C)。

KとGは、平成一〇年六月、公共工事などを請け負うために県に虚偽の申請をして特定建設業の許可を受けたなどとして、建設業法違反の疑いで逮捕され(甲一六の1、2、5及び6)、同年八月には、脇町土木事務所長らを解放同盟西南ブロック連絡協議会事務所(鴨島町喜来)に呼び出して、最低制限価格の不正操作を要求したなどとして、競売入札妨害の疑いで再逮捕された。そして、Kらは、公判廷において、その事実を認めた(甲二九ないし三二、四〇)。

八  解放同盟徳島県連合会(以下、「解放同盟県連」という。)は、平成一〇年六月二五日、Kらが建設業法違反事件で逮捕されたことから、「私たちは、こうした事態を四年程前から既に予測し、県西の町村長交渉をはじめ、県土木部長交渉時等において、これらの業者が恫喝や理不尽な行動で多くの公共事業を独占し、結果的に他建設業社を衰退させている等の情報から、健全な経済行為が行えるよう常に訴えるなどしてきた。」などとし、部落解放の目的から逸脱した運営がなされていたとして西南ブロック連絡協議会を解散し、K、Gらを除名処分とした(甲一七、三五)。

九  なお、平成一〇年九月一四日、当裁判所は、本件除名処分の執行を停止する旨の決定を行い、高松高等裁判所が被告川島町議会の抗告を棄却したことから、同年一一月三日、C議長は川島町選挙管理委員会に対し「欠員が生じないこととなった」旨通知し、同月六日、同委員会はAの繰上補充は無効であることを告示した(甲七八ないし八〇)。その後、最高裁判所は、被告川島町議会の抗告を棄却した。

(争点)

一  訴えの利益の有無

二  本件除名処分の有効性

1  地方議会議員に対する除名処分と司法審査について。

2  懲罰動議に記載されていなかった事由を、除名処分の理由とすることの可否について。

3  前記争いのない事実等三記載の1ないし5の原告の発言は、利益誘導発言であって、川島町議会会議規則一〇一条に違反し、本件除名処分の理由となりうるか。

4  前記争いのない事実等三記載の6の原告の発言は、差別発言であって、地方自治法一三二条、川島町議会会議規則一〇一条に違反し、本件除名処分の理由となりうるか。

(当事者の主張―争点一について)

一  被告川島町議会の主張

1  本件訴訟は、訴えの利益を欠く不適法なものであるから、却下されるべきである。

2  本件においては、除名処分が有効であることを前提として、新たな法律関係が形成されている。すなわち、前記争いのない事実等五記載のように、平成一〇年一月二三日、繰上補充によりAが当選人と定められ、被告川島町議会の議員の資格を取得し、議員として活動しているのであるが、この事実については、公職選挙法一〇一条の三第二項の規定に基づき、川島町選挙管理委員会によって平成一〇年一月二三日告示されており、法定の期間内に異議の申出、審査の申立て及び訴訟の提起はなされなかったのであるから、右期間の経過によってAの当選が確定した。

ところで、地方公共団体の議会の議員の当選の効力については、同法二〇六条、二〇七条に規定する当選争訟によってのみ争い得るものである。そうだとすると、原告の除名処分を前提として新議員が当選人として定められ、それに対して当選争訟が提起されることなく、右当選の効力が確定している本件においては、仮に原告の除名処分が取り消されたとしても、新議員の当選が無効となるものではなく、Aの議員資格には何らの影響も及ぼさない。それ故、本件除名処分が取り消されたところで、原告が議員資格を回復できないのであるから、本件訴訟は訴えの利益を欠くものと言わざるをえない。

3  そもそも、選挙に関しては適法性の要請がある一方で、選挙というものの性質上、選挙結果の安定性、公定性の要請が極めて強い。公職選挙法が選挙及び当選の効力に関して通常の行政争訟とは別個の不服申立手段(選挙争訟及び当選争訟)を設け(二〇二条ないし二〇四条、二〇六条ないし二〇八条)、その不服申立期間も比較的短期に設定し、争訟の処理については特に迅速に行うことを要求し(二〇三条)、争訟の提起があってもそれが確定するまでは絶対に選挙の効力に影響を与えないものとしている(二一四条)趣旨も、右のような点にあると解される。

そうすると、川島町選挙管理委員会がAの繰上補充当選告示処分を取り消し、同人の当選を無効とする決定をすることは法律上許されないのである。

二  原告の主張

1  選挙管理委員会は、除名処分を有効としてなされた公職選挙法一一一条による欠員通知に基づき、それに続く行政手続として同法の規定に従い、同法上の覊束行為として右繰上補充の手続を行い、その告示をなしたものであるから、除名処分が無効となれば、議会議長による公職選挙法一一一条の欠員の通知は、行政事件訴訟法三二条の対世効により瑕疵が生じることになり、選挙管理委員会は、右繰上補充の告示を取り消すことになる。

2  Aが議員資格を得た根拠は、従前なされた選挙結果において偶々原告と同数であったという稀有な場合における繰上補充規定が適用されたことによる。

議員又は長の欠けた場合の繰上補充について規定する公職選挙法一一二条は、一旦有効に議員又は長の身分を取得したものが欠けた場合、補欠選挙を行わないで一定の資格、要件を有する者を当選人に補充する方法を定めたものであると解されており、その意味で、繰上補充はいわゆる選挙ではない。右にいう「資格、要件」は、既に欠員となった議員が選出された選挙において生じていたものであり、その意味で繰上補充はその資格要件の有無についての確認手続というほかなく、欠員補充のために実施される補欠選挙のような、選挙人の「新たな意思の表明」による議員資格の付与とは全く性格を異にするものである。

それ故、本件は、除名処分の取消判決による救済の対象たるべきものである。

3  補欠選挙は争訟係属中は行い得ないこととされており(公職選挙法三四条三項)、その趣旨は、補欠選挙における新しい法律関係の形成が争訟の障害となりうることを避けることに主眼があるのであるが、繰上補充が前述のような性格であることからして、右のような制限を受けず、争訟係属中であっても繰上補充を行うことは差し支えないとされている。その場合、その後選挙又は当選の効力が確定し、その結果、繰上補充が無効となる場合がありうるのであるが、このことは当然に想定されていると解さねばならず、よって、争訟等の結果、欠員原因が取り消されたりした場合には、改めて選挙会を開き、当該繰上補充当選人が当選を失うことを定める扱いがなされることになる。

それ故、被告川島町議会は、一旦当選を告示した限り、選挙管理委員会はその当選を無効とすることは許されない旨主張するが、右は少なくとも単に確認的方法により行った繰上補充に妥当する考えではない。

4  また、実際の手続においても、本件の如き繰上補充のなされる場合には、欠員通知の直後(五日以内)に開かれる選挙会が繰上補充の資格、要件を充たすか否かの確認を行い、その結果、右資格、要件が存在した場合には覊束的に当選人を決定し、選挙管理委員会がそれを告示し、もって議員資格を付与するにすぎない。このような場合においても、なお当選争訟の提起を要し、その方法以外に繰上補充された議員の資格は左右されないという被告川島町議会の主張は、およそ不可能を強いる、無意味な主張といわなければならない。

(当事者の主張―争点二について)

一  原告の主張

1  地方議会議員の除名処分に対する司法審査のあり方について

(一) 本件は、地方議会の議員の議会における発言内容を理由とする除名処分が問題となっているのであるから、懲戒処分の理由及び除名処分が選択されたことの適否が法律や議会規則に照らして積極的に審査されなければならないものである。

すなわち、地方議会は言論の場であるから、議員の言論表現の自由は最大限保障されなければならないのであり、司法審査の限界を検討する上で、議員の表現の自由に対する配慮が当然必要である。そもそも、表現の自由は、議会制民主主義の過程を支えるものとして重要な意義を有する。本件は除名処分であるが、除名処分によって議員は議会から排除され、議会での発言の機会を完全に失い、誤りをその後の議論で正す機会さえ失うことになる。したがって、地方議会に自律権が認められ司法審査が一定限度制限されるとしても、それは無制限なものではなく、議会における表現の自由が侵害されひいては民主主義が阻害されるおそれがある場合には、裁判所は、謙抑的であってはならず、積極的に司法審査を行わなければならない。

(二) 自律権が認められる団体は、地方議会以外にも、例えば、宗教団体や政党等があるが、地方議会の場合、憲法や法律で存在や役割、構成、運営方法が定められており、宗教団体や政党のように団体の自主性に任されているわけではない。従って、いずれにも団体の自律権が認められるとしても、地方議会の自律権の内容を政党や宗教団体と同様に広く考えるわけにはいかない。

地方議会は、直接の構成員は議員であるが、全住民の代表機関であって、宗教団体や政党のように団体の目的に賛同して集ってきた特定の者たちだけで構成されているわけでない。すなわち、いわば住民の全員加盟制団体である地方自治体の代表機関である地方議会は、議員に対して、特定の政治的立場からの処分を厳に戒めなければならない。

また、議員は住民各層の利益や意見を議会に反映させることを期待されている。住民の意見の多様化が進んでいる今日、どの議員も欠くことができない貴重な存在である。こうした議員の地位と機能の重要性にかんがみれば、議員の除名処分は、住民と議会とのパイプを断ち切ることを意味し、宗教団体や政党の場合と異なり、処分を受けた当該個人の問題に止まらない面を有することになる。

以上の次第で、本件のような除名処分に対しては、裁判所の積極的な審査が求められるのである。

2  本件除名処分の手続違反について

被告川島町議会の平成九年第四回定例会における一般質問において、原告が地元解放同盟幹部の無法な町行政への介入、利権あさり問題を取り上げ、その際「解放同盟はえせ同和行為だ」などと発言したことに対し、平成九年一二月一七日、I議員らから、無礼の発言であり同和問題解消に心血を注いできた人々を深く傷つけ差別を助長する発言で議会の品位も大きく傷つけたとして懲罰動議が提出され、被告川島町議会は同日これを可決し懲罰特別委員会に付した。このように、懲罰動議は「解放同盟はえせ同和行為だ」との発言に対してのみなされたものであるが、同委員会は右発言のみでなく、富士清掃について阿波衛生社と比較対象して質問したことが利益誘導発言にあたるとして、これを懲罰理由につけ加え、平成一〇年一月一三日、除名処分に付すべきであるとする審査報告書を提出した。そして、同月一九日、本会議において右報告書通りの事由により、除名決議がなされたのである。

ところで、川島町議会会議規則(一〇九条)では、懲罰動議は文書によりかつ懲罰事犯があった日から三日以内に提出しなければならず、また懲罰動議がなければ懲罰委員会の審査は行えず、そして、懲罰処分の議決は、懲罰委員会の審査なくしては決定できない(一一○条)とされている。このような規則の趣旨からいって、議会の懲罰処分は懲罰動議の範囲内でしか出来ないことは明らかである。書面に記載された懲罰事由から離れて別個の事由で処分が自由になし得るとすれば、書面による三日以内の懲罰動議を必要とする規則の手続的要件は無に帰してしまうからである。

I議員が提出した懲罰動議においては、利益誘導発言は懲罰理由とされていない。それ故、懲罰動議になかった事由を懲罰理由につけ加えて行われた本件除名処分は、右規則に違背した違法があり、取り消されねばならない。

3  被告川島町議会が主張する差別発言について

(一) 「えせ同和」という言葉自体いわゆる差別用語でないのはいうまでもないが、そもそも「えせ同和」排除は同和問題における重要な国の基本方針の一つであり、その対象は運動団体にも及ぶことは総務庁が正式に決定し、発表しているところである。それ故、原告が解放同盟はえせ同和であると発言しても、それが当然に無礼発言や差別発言になるものではなく、解放同盟とりわけ原告の指摘した川島町等における解放同盟の実態がえせ同和と指摘されてもやむをえないものかどうか、それとも原告が全く事実に反することを述べたものかどうかを慎重に調査、審議し、その結果えせ同和と指摘すべき何らの根拠もないということになって初めて懲罰に付すことがあり得ることとなるべきものである。

しかるに懲罰特別委員会の審査も議会の議決もそして徳島県知事の審決もその前提問題を全く不問にしたまま、解放同盟をえせ同和と指摘すること自体が、事実がどうであれ、無礼、差別発言ときめつけるものであって、これはまさに解放同盟を神聖にして侵すべからざる存在とする立論以外の何物でもない。本件除名処分は原告の指摘するえせ同和発言を根拠あるものかどうかを審査せず、発言自体を許されざるものとしてなしたものであり、この点ですでに違法不当なものと言わざるを得ない。

(二) 川島町における解放同盟の状況等

(1) 徳島県下での解放同盟の無法ぶりは全国的に顕著であるが、なかでも最も悪質で最早運動体とも言えないほど一族が支配し、解放運動とは単なる名目で、実態はその同族の同和事業の利益独占の手段にほかならない実情にあるのが川島町など麻植郡下での解放同盟の姿である。

Fらは、父子で解放同盟の支部長等に就任し、その立場を利用して同和事業を独占してきた。昭和五四年一族の工事高は一億三千万円程度であったが、平成九年では二五億五八三五万円まで急上昇するに至っている。とくに、川島町では、町の公共事業費のうち平成七年度が五億三二二三万円七千円のうち四九・七パーセントの二億六四三八万一千円が同和事業費、平成八年度が六億二二一七万六千円のうち四三・四パーセントの二億七〇〇八万六千円が同和事業費となり、乏しい町予算のなかで同和事業にきわめて偏重している上、その五〇パーセント(平成七年)、四七・八パーセント(平成八年)をL一族の会社が独占的に占めているのである。

また、町のくみ取りについても、もともとは町内業者の富士清掃へ請負わせていたものを圧力により町外業者であるL一族の経営する阿波衛生社に請負わせるようになり、平成九年には同社の受注が四〇パーセントも占めるに至った。

このようなL一族への利権の集中は、町当局への恫喝もしくは町当局との癒着によるものとしか考えられない。そして、町住民の誰もがこのような川島町における解放同盟の実態に心を痛めつつも、後難をおそれて公然と批判することができず、それをいいことにますますL一族がほしいままに自治体を喰い物にしてきたというのが、原告質問当時の川島町の実情であった。

(2) 平成九年六月町議会は、町工事等について町会議員等の三親等内企業の排除要望を決議し町はこれに従う形で要綱を決めた。しかし、右決議は解放同盟L一族が同年四月一〇日に「行政交渉」と称して川島町会議員をひとりひとり解放同盟の拠点となっているこだま会館(隣保館)に呼びつけ、決議を迫り、応諾させ、町に強要したものである。その真の意図はB議員の兄の経営するB工務店を指名業者から除外させ、森本工務店が一般の公共事業まで独占しようとするものであった。

(3) 平成九年一〇月一日、川島町同和対策課職員であったDが突然に教育委員会へ配置転換された。原告が調査すると、Dに差別発言があり、町として同職員を「同和問題の啓発に従事させ、自らの差別意識の解消を図らせるため」異動したということであった。

Dの差別発言なるものは次のようなものであった。平成九年国の補助による同和対策事業として川島町が公園墓地造成事業を行っていたが、同事業も例によってL一族の株式会社森本工務店等が請負っていた。Dは担当職員として現場に臨み、墓石業者に対し「地域の事業は難しいので、この人達のいうことをよく聞いてせないかんでよ。」と言ったのを居合わせたFが差別発言であると町に因縁をつけたものである。しかも、LによってDの発言は「この辺の人は面倒でよ。」と言ったとされ、それが差別であるとして、D職員の処分を町に強要した。

結局Dは「日頃から差別意識があり、うっかり口に出た。」と反省をさせられた上、前記配転処分を強行されたものである。しかし、原告の調査の結果、Dが述べたとする「この辺の人は面倒でよ。」発言は全くのデッチ上げであり、このデッチ上げ発言をもとに解放同盟の干渉によって町職員の配転人事が行われたことが明らかとなった。Dの差別発言なるものがFによってねじ曲げられつくり上げられたものであることは、原告のDに対する直接の聴き取りによっても確認しているが、そもそも解放同盟のなかでも超大物であり、粗暴さで近辺におそれられているFの面前で、Dが「この辺の人は面倒でよ。」などと発言できるはずがない。

(三) このような解放同盟L一族の行為は「部落解放」の美名のもとに実際は一族の不当な利益を得るための利権あさりであるとともに、町行政に干渉した人権侵害行為であり、いわゆる「えせ同和行為」そのものである。このため、原告はこれら一連のLら解放同盟の行為は「えせ同和行為におとるこっちゃ」、「解放同盟」の行為は「えせ同和行為じゃ」と指弾したものである(なお、原告発言が解放同盟組織全般を指したものでないことは、右発言に先行する質問から明白である。)。したがって、原告の発言は正に当を得ており、それは無礼発言でも、差別発言でも絶対にない。誤った同和の名による利権あさり、行政への不当な干渉を批判し正そうとするものであるから、むしろ真の意味で同和問題の発展とその解決に対して多大の貢献をしたものであり、その発言を理由とした本件処分は違法きわまりない。

そして、原告発言の正しさは今般の徳島県警によるL一族に対する一斉検挙によって公的にも明らかとなった。前記争いのない事実等八記載のように、解放同盟L一族の行動が「部落解放」を口実として自らの利権あさりに狂奔し、自治体財政を喰いものに、恫喝や、理不尽な行動を展開した「えせ同和行為」そのものであったことは解放同盟県連すら自認するところとなっているのである。

4  被告川島町議会が主張する利益誘導発言について

(一) そもそも、利益誘導発言なるものが本来的に除名処分事由に該当しうるのか疑問がある。議員はその議員活動において多かれ少なかれ地域や住民の正当性利益のために活動を展開している。本件では原告の本会議での発言が問題視されているが、むしろ一般には議会外でも地域や住民の要望、要請をうけて、あるいは自らの判断で町長や町当局に対しその利益のために種々の申入れや、橋渡し役をし、その要求実現のために活動をしているのであり、そこでは具体的な固有名詞をあげてなすことは当然視されている。このような非公式の場で固有名詞をあげてその利益実現のために要望、要求、申入れをなすことは出来るが、本会議での発言は一切許されないなどとするのはむしろ偽善であろう。公開の議場での正式の発言で不正、不当な利益を体して発言することは到底不可能であり、むしろこのような場での発言が特定固有名詞をあげ、結果としてそれがその利益と合致するとしても、それが不正、不当な利益を求めるのでない限り認められるべきである。まして、それは正々堂々とした公の場での議論であるから町当局に不正な圧力を与え、その結果として特定の者に不当な利益を与えるということは考えられないことである。

(二) 原告は、一二月議会における一般質問において、解放同盟L一族の不法な利権あさりや行政介入を徹底的に解明し、これに癒着した町当局の責任を追求し、その是正を求めるために発言を行ったのである。

発言通告の第一点「町会議員三役並びに教育長関連企業の物品納入、委託業務工事、請負等」というのが前述の三親等内企業排除の決議、要綱についてのものである。通告第三点「川島町の施設の燃料及び自動車のガソリンの業者との契約並びにし尿処理施設の業者との契約について」は、町内業者育成の町方針に反し、町内の富士清掃を押しのけて町外のL一族経営の阿波衛生社に四〇パーセントもの業務を請け負わせるとの異常な事態を徹底的に追及したものである。問題はきわめて具体的であり、業者名をあげて原告が追求したことはなんら非難されるべきでない。そもそも、川島町にはし尿処理業者は富士清掃一社しかなく、町内業者と匿名にしても、富士清掃のことを指すのは誰の目にも明らかであるから、業者名をあげたところで問題となる余地はない。

また、原告は、これに関連して、燃料関係では、湯浅石油が町住民が経営するものであるにもかかわらず、たまたま営業所が町外の鴨島町にあるとの理由だけで、全く受注できず、一方、阿波衛生社は町外業者であるにもかかわらず、四〇パーセントも受注しているという実情について、町内業者保護、行政の公平性の観点から、湯浅石油にも納入させるべきでないかと質問したのである。これは、具体名をあげなければ質問にならない。もとより、原告は、湯浅石油から何らの依頼を受けてなしたものではない。たまたま、ガソリンを入れる際経営者の妻からこぼされ、事情を認識していたので、同種の問題性を持つものとして、町議としての公益的な立場からとりあげたものである。

そして、原告はその上で関連事項として、近久地区の公園墓地造成事業まで阿波衛生社と同一の解放同盟L一族の業者が請け負っていること、墓移転まで住民の要望を離れて一括請負させていること、とりわけ町職員の不当な人事異動があったことの問題性を厳しく指摘したのである。

(三) したがって、被告川島町議会の主張は、原告発言をねじ曲げ、真意を曲解したものにほかならない。

そもそも、原告が湯浅石油や富士清掃の利益を図る目的で町当局へ働きかけるつもりがあれば、本会議でとりあげるはずがない。また、原告が富士清掃の利益誘導を目的とするならば、阿波衛生社の業者名を出す必要は全くない。解放同盟幹部の経営する阿波衛生社名をあげて不公平であるとする質問はきわめて危険であり、富士清掃にとって利益誘導どころか、徹底した嫌がらせ、いじめを受けるおそれが高いからである。

被告川島町議会が主張するように原告質問が富士清掃、湯浅石油の町契約への参入を図る利益誘導が目的なら、これに関連して町職員の配転人事問題を発言する必要はない。そして、その結論的言辞で、これらの行為は「えせ同和行為におとるこっちゃ」、「解同(の行為)はえせ同和行為だ」と発言する必要もない。被告川島町議会は、右発言は利益誘導発言の文脈で出たなどといってあたかも「利益誘導」の派生的発言であるかのように言うが、話しは逆である。あえて原告がその結論部分においてかかる指弾的発言に及んだことは、当日の一連の質問に関することがすべて解放同盟L一族の不当、不正な同和の名による利権あさりと利権集中ならびに許されざる町行政への干渉に対する批判的発言であったからにほかならない。

(四) 原告は事前の書面による通告書で固有名詞をあげて正々堂々と「<1>他の業者と湯浅石油との件、<2>阿波衛生社とふじ清掃社との件」と明記した上で発言を行っている。固有名詞をあげることが議員として許されないものであれば、議長はこれを事前に注意すべきである。原告にとって今般が議員としてわずか二度目である。かかる特定業者名をあげてその問題性を突くことが許されないものであるならば当然議長から前もって指摘されるはずであり、発言許可がある以上、認められるものと考えたものである。

また、湯浅石油の件については、町もその問題性を認めざるをえなかったものであり、町の今後十分配慮するとの答えに対し、それはいれるということじゃねと念を押したのが不可というが、質問に対する答えとして「配慮する」という官僚独特のいいまわしの言葉がいささかあいまいさを残していることから明確にさせたことは決して不当ではない。

なお、被告川島町議会は、原告が議会での発言に先だって富士清掃などから事前の了解を得ていることをもって利益誘導のあらわれの如く主張するが、一つ間違えば利益誘導どころか、不利益誘導になりかねない特定名をあげての質問をするに際し、事前の了解を得ておくことは最小限必要なマナーである。

5  除名処分の適否について

(一) 原告は、本件の議会発言により、解放同盟L一族の川島町に対する不当な圧力と、それに屈する川島町の主体性のなさを堂々と批判した。今回の除名処分はこのような解放同盟L一族批判を堂々と行う原告を議会から放逐することをその目的とするものである。この目的を達成するために、解放同盟L一族は強烈な圧力を川島町議会議員に対してかけ、多くの議員はその圧力に屈服し、本件除名処分を強行したのである。

(二) そもそも、解放同盟の行為をえせ同和と批判するということに反対の主張や評価があるとしても、だからといって原告発言を封殺すべきものでなく、ましてその発言を理由として除名処分にすべきものではない。確かに、解放同盟を部落問題解決のため心血をそそいできたとする見解もあろうし、解放同盟にこよなく親しみを抱く立場もあろう。しかし、かりにそのような見解立場に立っても、それと正反対の観点から解放同盟を厳しく批判する発言や、主張も認めるのが民主主義である。とりわけ原告発言は議会での議員としてのものであって、そこにおける批判の自由は最大限に保障されなければならず、そうでなければ議会制民主主義は根底から崩れ去ってしまう。原告発言が何の根拠もなくなされたものでない限り、その発言は議会において認められるべきであり、まして本件の如く発言自体許されざる無礼ないし差別発言として切って捨てることは絶対に許されないものである。

除名処分は有権者によって民主的手続によって選出された議員をその意思と関係なく議会から放逐するものであるから、それは何人の立場からみても容認出来ないような非違のものであることが必要である。

二  被告川島町議会の主張

1  地方議会議員の懲罰に対する司法審査のあり方について

(一) 一般的に、地方議会議員の懲罰に対する司法審査については、最高裁判所の昭和三五年一〇月一九日判決や同年三月九日判決を根拠に、除名処分以外の懲罰は司法審査の対象とならないが、除名処分は司法審査の対象となるものと理解されている。

(二) ただ、仮に除名処分が司法審査の対象となるとしても、それが無制限に司法審査に服するのか否かについては別途問題となりうる。すなわち、この問題は、団体の内部的事項にかかわる司法権の限界、あるいは団体の自律的処分と裁判所の審判権の問題として論じられている問題であり、具体的には地方議会の他、宗教団体、政党、大学、労働組合等の団体で問題となる。そして、この問題は、さらに、以下の二つに細分化することができる。

(1) 司法審査の可否の問題

団体の内部的事項については、そもそも司法審査の対象となりうるのか否か、という問題である。

(2) 司法審査の範囲ないし限度の問題

仮に団体の内部的事項について司法審査の対象となりうるとしても、裁判所はどこまで審理判断しうるのか、という問題である。

この問題に関しては、従来は前者が主として論じられており、後者については必ずしも意識的には論じられていなかった。前掲最判も、地方議会議員の除名処分に関し、(1)の点につき積極に解しているが、(2)の点については何ら言及していない。

(三) 地方議会に自律権が認められる以上、地方議会の行った判断に対する司法審査のあり方としては、地方議会の自律的決定を尊重した抑制的判断が求められる。それ故、裁判所は、<1>手続が著しく適正を欠くと認められる場合、<2>全く事実上の根拠に基づかない場合、<3>処分内容が社会通念上著しく妥当を欠く、あるいは公序良俗に違反するなど、著しい裁量権の逸脱があることが明らかな場合に、議会の行った判断に看過し得ない重大かつ明白な誤りがあるか否かという観点からのみ審理判断することができるに過ぎず、右のような場合でないかぎり、地方議会の自律的決定を尊重し、地方議会の行った除名処分に対して違法の評価を行うことは許されないと解すべきである。

2  原告が行った問題発言の内容

原告は、平成九年一二月一六日、定例会の一般質問において、具体的な業者名を挙げて、露骨にその業者の利益を図ろうとする発言(以下、「利益誘導発言」という。)、及び、部落差別問題の解決のために日夜努力している町及び団体に対して、不当な偏見に基づきその努力を否定し、部落差別を助長する発言(以下、「差別発言」という。)を行った。利益誘導発言の具体的内容は前記争いのない事実等三記載の1ないし5、差別発言の具体的内容は同6のとおりである。

3  除名処分に至る経緯

(一) 一二月一六日の一般質問終了後、原告の発言を重大視したJ議員は、原告に対し、差別発言について「今の発言は問題ではないか」と指摘し、その撤回を求めた。これに対して、原告は「なんでも来い、だれも来んかい」などと息巻き、また、庁舎内外においても「わしの言うことは間違っていない」との発言を繰り返すなど、その発言を撤回する気配は絶無であった。

(二) 原告の発言については、柴田議員のみならず、その他の同僚議員の間でも問題となっていたことから、翌一七日、定例会開始前の午前九時過ぎに、C議長、M副議長及びN議会運営委員長の三名が、原告を議長室に招いた上で、原告に対し前日の発言を撤回するよう、説得を行った。しかし、原告がこれに応じる気配は全くなかった。すなわち、利益誘導発言については、C議長が「業者名を出すのもいけない」との指摘をしたのに対し、原告は「名前を出すことについては相手(湯浅石油及び富士清掃のこと)から許可もろうとるからええんじゃ」などと述べ、前日の発言が湯浅石油及び富士清掃の意向を受けたものであることを認めた。しかし、そのことが問題であるとは認識しておらず、従って発言を撤回することもなかった。また、差別発言については、原告は「町に『気いつけえよ』という趣旨のことを言ったに過ぎず、差別発言ではない。」などと述べ、差別発言であることを否認している。

(三) そして、同日午前九時三〇分、定例会が再開され、C議長の要望により、前日の原告の一般質問の発言について協議のため議会運営委員会が開催されることとなった。そのため、約一時間休会となったが、その間もP議員ほか数名の同僚議員によって、原告に対して前日の発言を撤回するよう説得を続けていたが、原告は撤回する意思がない旨明言していた。

(四) その後、同日午前一〇時三四分に会議が再開された後、前記争いのない事実等四記載のように、C議長が原告に対し、前日の一般質問での問題発言を取り消すように要請したにもかかわらず、原告は自己の発言には何ら不適切な点はないとして右要請を拒絶したことから、除名処分が行われることとなった。

4  手続の適正について

(一)前述のように、本件除名処分は、地方自治法及び会議規則に則った適正な手続によって行われており、何ら違法な点は存しない。

なお、原告は、懲罰動議は「解放同盟はえせ同和行為だ」との発言に対してのみなされたものであるにもかかわらず、本件除名処分においては懲罰動議になかった発言(利益誘導発言)が懲罰理由につけ加えられているので、本件除名処分は違法であると主張する。

しかし、「動議」とは、会議中に予定議案以外の事項を議事に付すため、議員から発議することを言い、懲罰の動議の内容には、<1>某議員に対し懲罰を科されたいとするもの、<2>某議員に対し特定の懲罰(たとえば、何日間の出席停止)を科されたいとするものの二通りがあるとされる。

そして、本件の懲罰動議の趣旨は「原告に対して懲罰を科されたい」というものであって、原告の右発言は懲罰動議の理由に過ぎない。

したがって、懲罰動議になかった発言が懲罰理由に付け加えられているとの原告の主張は失当である。

5  懲罰事由該当性について

(一) 利益誘導発言

(1) 利益誘導発言の内容については、前述のとおりであるが、右発言は川島町会議規則一〇一条の「議員は、議会の品位を重んじなければならない」との規定に違反する。

(2) すなわち、憲法一五条二項は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」と規定し、公務員の全体奉仕義務について定めている。この意味するところは、公務員が、国民の信託によって公務を担当する者として、国民全体の利益のためにその職務を行わなければならず、国民の中の一部を占める特定の政党や階級・階層の利益のために行動してはならないと言うことである。従って、公務員が特定の者の利益に偏して活動することは憲法一五条二項によって禁止され、これに反した場合には、憲法に基づく公務員の全体奉仕義務に違背するものとして、地方自治法一三四条一項にいう「この法律」に違反した場合に包含され、懲罰事由となる。

(3) そして、本件における原告の利益誘導発言の内容を見ると、原告が湯浅石油及び富士清掃という特定の業者の利益に偏したとしか考えられない発言をしていることは明らかである。

すなわち、前記争いのない事実等三記載の1では「阿波衛生社がこのごろの新しい施設を、でけた浄化槽にしたら大半が阿波衛生社との契約になっとるようで、富士清掃とはあまり契約をしていない。」と発言しており、同5でも富士清掃との比較において、阿波衛生社が川島町の公の施設の契約を取りすぎている旨発言している。これらの発言は、富士清掃の契約数が少ないことを指摘し、同社の契約数を増加させるよう川島町に要求しているものといわざるをえない。

湯浅石油に至っては、もっと露骨かつ執拗である。すなわち、同2において「それについては湯浅石油が入っとらんのじゃけれども、これはどのように」と、湯浅石油が保養センターへの納入を行っていないことを問題視する発言を行っている。しかも、「十分配慮したい」との川島町総務課長の答弁にも満足することなく、「配慮するということは入れるということじゃね、それを答弁願います」、「湯浅石油も同じ仲間に、周りの同じ仲間に入れてもらうような方法に向けてもらいたい」などの発言を行い、湯浅石油の参入を実現すべく、川島町の言質をとるべく露骨かつ執拗に食い下がっている。

(4) さらに問題なのは、原告の右発言が湯浅石油及び富士清掃の意向を受けたものであるという点である。

すなわち、利益誘導発言に対して、C議長が「業者名を出すのもいけない」との指摘をしたのに対し、原告は「名前を出すことについては相手から許可もろうとるからええんじゃ」などと述べている。右事実からは、原告が利益誘導発言について、湯浅石油及び富士清掃との間で事前に協議していたことが窺われるのであって、利益誘導発言が両社の意向を受けたものであることは明白である。特に、富士清掃は原告の選挙母体であり、原告の発言は露骨な利益誘導であるといわざるをえない。

(5) 以上のとおり、原告は全体の奉仕者として川島町住民全体の利益を図らねばならない立場にあるにもかかわらず、湯浅石油及び富士清掃の意向を受け、一般質問という形を取ってはいるものの、その内容としては両社の受注増加を要求する趣旨の発言を行っている。したがって、原告が憲法一五条二項の全体奉仕義務に違反していることは明白である。

さらに、原告の利益誘導発言は、政治家というものは特定の業者の利益のみを追求するものであるとの誤解を町民に植えつけ、政治不信を助長するものであって、議会全体の信用を失墜せしめ、議会の品位を汚したものである。その意味で、「議員は、議会の品位を重んじなければならない」と規定する川島町会議規則一〇一条に違反していることも明らかである。

(二) 差別発言

(1) 差別発言の内容については、前述のとおりであるが、右発言は地方自治法一三二条の「普通地方公共団体の議会の会議・・・においては、議員は、無礼の言葉を使用し・・・てはならない。」との規定、及び会議規則一〇一条「議員は、議会の品位を重んじなければならない」との規定に違反する。

そして、地方自治法一三二条に言う「無礼の言葉」とは、議員が会議に付議された事項についての自己の意見や批判の発表に必要な限度をこえ、議員その他の関係者の正常な感情を反発する言葉を言い、「無礼の言葉」に該当するかどうかは、その発言の前後の状況等との関係で判断しなければならない。

(2) これを本件についてみるに、原告の発言内容は「解放同盟はえせ同和行為じゃ。はっきり言うたら。そんなことに町当局はあまんじとるわけじゃ。」というものであって、解放同盟及び川島町を「えせ同和行為」と断じるものである。

部落解放同盟は、「部落差別から完全に解放されることを目的とする、被差別部落出身・住民の人々による大衆団体」であり、その前身は大正一一年に創立された「全国水平社」にまでさかのぼる。全国水平社は、部落差別を社会問題として経済的・職業的自由を要求するとともに、差別事象に対してはそれまでのように泣き寝入りをせず、差別に抗議する闘いという方針を打ち立て、「人の世に熱あれ、人間に光りあれ」で結ばれる「水平社宣言」を採択した。全国水平社はその後、部落の環境改善を中心とした運動を展開し、大きな成果を挙げてきた。そして、昭和三〇年には「部落解放同盟」に改称し、部落の環境改善や部落大衆の生活擁護、仕事保障、教育の機会均等のための運動を積極的に展開し、現在に至っている。このように、部落解放同盟が部落差別解消のために活動している団体であることは周知の事実である。

また、川島町においては、昭和四四年に「同和対策事業特別措置法」が施行されて以来、対象地域と対象地域外との格差解消のために、同和対策事業を町政の最重要施策として位置づけ、各種事業に取り組んできたところである。そして、平成五年一〇月には「川島町部落差別撤廃・人権擁護に関する条例」を施行し、さらに平成八年一一月には、「川島町部落差別撤廃・人権擁護に関する総合計画」を策定するなど、基本的人権尊重の理念の早期実現に向けた取り組みを行っているところである。

このような状況のもと、原告は解放同盟及び川島町を「えせ同和行為」と断じたのである。「えせ同和行為」とは、本来の同和問題の解決を目指す活動とは全く異質なものであり、同和に名を借りた、すなわち「同和(問題)はこわい」という人々の間違った先入観につけ込んで、同和問題を口実に企業や個人に対する不当な要求をする行為を言う。つまり、原告の発言は、解放同盟及び川島町の部落差別解消のための活動を反社会的、反倫理的なものとして断罪し、その社会的意義を全面的に否定する侮辱的言辞と言わざるを得ず、解放同盟及び川島町の名誉を不当に傷つけ、社会に対して無用の誤解と混乱を与え、ひいては同和問題に対する正しい認識を妨げ、部落差別を助長させることにもなりかねないものである。

なお、原告は、「解放同盟」とは西南ブロックの川島支部長をしているL一族のことを指すと主張するが、一般通常人が「解放同盟はえせ同和行為じゃ」という発言を聞けば、解放同盟全体を指すと解するのが普通である。

(3) ところで、原告は、川島町においては解放同盟が無法な行政介入と利権あさりを行っており、原告の発言はこの実態にメスを入れたものであって、事実に即した発言であり、無礼発言でも差別発言でもないと主張する。

しかし、原告の発言の意図は、特定の業者の意向を受け、その業者が町の発注する契約へ参入することを実現することにあり、その文脈の中で「解放同盟はえせ同和行為じゃ」と発言がなされたにすぎない。

すなわち、差別発言の前後における原告の発言の内容は、湯浅石油及び富士清掃が町の契約を受注できていないので、早急に両社を参入させてほしいというものである。そして、そのような文脈の中で本件の差別発言が行われており、しかも右発言は「もう一つこれね、これは問題外のことですけども、質問外のことですけど、ちょっと言わせてもらいますけども。ついでじゃから。」との前置きの後になされている。結局のところ、原告の発言の意図は、湯浅石油及び富士清掃の町の契約への参入を図ること(利益誘導)にあったのであり、解放同盟のことについて述べる目的も、解放同盟の実態を明らかにするというものではなく、右両社への契約の発注を行わない川島町を非難し、両社への契約の発注を促すために、その手段として川島町を「えせ同和行為」と侮辱したというのが事の真相である。

そもそも、富士清掃は解放同盟初代川島支部長の会社である。また、当日の原告の質問は、休憩も含めて全部で約三時間弱であるが、一般廃棄物の運搬及び処分の調査結果についての質問が約二時間にも及んでいる。これらの事実だけみても、原告の発言の意図が解放同盟の実態にメスを入れようとする点にあるのではないことは明らかである。

なお、いわゆる三親等決議がなされたのは、議会議員が町民の代表として自らを戒め、疑惑や不信を招くことなく、行政の適正化と議員活動の公正を図ることにあり、その経緯も、隣接町である山川町において、平成七年九月二五日、同様の決議がなされたことから、議員自ら率先して襟を正さなければならないという機運が高まった結果、決議されたものである。それ故、三親等決議がなされたことと解放同盟もしくはL一族とを結びつけようとするのは筋違いである。

また、Dの人事異動についても、そもそも事前の発言通告がなされておらず、前後の文脈をみても「ついで」にすぎないものである。

さらに、湯浅石油についての質問も、公益性、平等性の観点からの発言はみられず、税金の点についても、富士清掃と阿波衛生社の問題において町内業者の育成の観点から問題視していることからすると、矛盾があるといわねばならない。

(4) 本件訴訟において、原告はひたすら「解同の実態」などと称して解放同盟を非難し、本件訴訟を解放同盟糾弾の場としようとしている。しかし、これは原告の発言の真の意図を巧妙に隠蔽するための争点のすり替えに他ならず、「解放同盟の実態」なる理由も、自己の発言の非を繕い、問題の本質から目をそむけさせるために、後からこじつけられたものに過ぎない。原告の主張は、本件除名処分の適法違法の問題を、解放同盟の実態とすり替えようとするものであって、全く失当である。

6  処分の妥当性について

(一) 本件において、原告に対する懲罰として除名処分を選択した理由は以下のとおりであり、処分内容が社会通念上著しく妥当を欠く、あるいは公序良俗に違反するなど、著しい裁量権の逸脱があることが明らかであるとはいえない。

(1) 発言の場

利益誘導発言及び差別発言がなされたのは、平成九年川島町議会第四回定例会における一般質問という公開の議場であり、かつ事前の周到な準備を経た上でなされている。

(2) 発言内容

利益誘導発言については、憲法一五条二項の全体奉仕義務に違反するものであり、また、議会全体の信用を失墜せしめ、議会の品位を汚したものであるという点では「議員は、議会の品位を重んじなければならない」と規定する川島町会議規則一〇一条の規定に違反するものでもある。

次に、差別発言については、解放同盟及び川島町の部落差別解消のための活動を反社会的、反倫理的なものとして否定する侮辱的言辞といわざるを得ず、解放同盟及び川島町の名誉を不当に傷つけ、社会に対して無用の誤解と混乱を与え、ひいては同和問題に対する正しい認識を妨げ、部落差別を助長させることにもなりかねない差別発言である。従って、地方自治法一三二条に言う「無礼の言葉」に該当するとともに、「議員は、議会の品位を重んじなければならない」と規定する会議規則一〇一条の規定に違反するものでもある。

そして、以上の違法の程度も重大である。

(3) 発言の影響

<1> まず、利益誘導発言については、政治不信が叫ばれる昨今、議員としては襟を正し、自らを戒め、いやしくも疑惑や不信を招くことのないよう慎重に行動することが要請される。特に最近の政治情勢を見ると、政治家の利益誘導行為が国民の政治不信・政治離れを助長しており、世論の強い反発を受けている。今、政治に求められているのは、政治家個人の私的利益に偏することなく、国民全体の立場に立って活動することであり、利益誘導行為を政治の場から放逐することは急務である。

しかるに、原告はこの動きに逆行し、全体の奉仕者として川島町住民全体の利益を図らなければならない立場にあるにもかかわらず、湯浅石油及び富士清掃という特定の業者の利益に偏した発言を行っている。この発言が、政治家というものは特定の業者の利益のみを追求するものであるとの誤解を町民に植えつけ、政治不信を助長するであろうことは想像に難くない。原告の発言は重大な影響をもたらすものである。

<2> 次に、差別発言については、解放同盟がいち早く反応を示し、川島町議会議長に対して、「川島町日出議員差別発言に関する確認会について」と題する書面を送付してきている。原告発言が、部落差別解消のためにこれまで多大な貢献をしてきた解放同盟の歴史と努力を無にし、その感情を著しく損ねたことは明らかであり、その発言の影響は極めて重大であることは明白である。

<3> また、川島町は、平成五年一〇月には「川島町部落差別撤廃・人権擁護に関する条例」を施行し、さらに平成八年一一月には「川島町部落差別撤廃・人権擁護に関する総合計画」を策定するなど、基本的人権尊重の理念の早期実現に向けた取り組みを行っているところである。しかし、原告の発言は、このような川島町の努力を無にするばかりでなく、社会に対して無用の誤解と混乱を与え、ひいては同和問題に対する正しい認識を妨げ、部落差別を助長させるおそれがある。その発言の影響が重大であることは明らかである。

(4) 発言後の原告の態度

原告は、右のとおり極めて重大な発言を行ったのであるが、原告が除名処分を受けるまでの間、前述のように、何度もそれを撤回する機会はあった。にもかかわらず、原告は自らの非を認めることなく、問題発言の撤回要請に応じず、問題発言の何が問題であるかさえ把握しておらず、全くの反省の色が窺えない。本件の原告の問題発言は確信犯と言うほかなく、このまま放置しておけば、再び同様の発言を行う可能性は極めて高い。

(二) 以上の事情を総合考慮すれば、公開の議場における戒告、公開の議場における陳謝及び一定期間の出席停止では議会の規律と品位を維持することは不可能であり、原告の懲罰事由の情状を特に重いものと判断して、懲罰として除名処分を選択したことが社会通念上著しく妥当を欠き、あるいは公序良俗に違反するなど、著しい裁量権の逸脱があることが明らかであるとは認められない。

以上により、本件除名処分は前述1(三)の要件のいずれの場合にも該当しないのであるから、適法である。原告は、本件除名処分の不当性について縷々主張するが、既に述べたとおり、地方議会の行った判断に対する司法審査のあり方としては、地方議会の自律的決定を尊重した抑制的判断が求められるのであるから、裁判所が本件除名処分の当否を審査することは許されない。

第三  当裁判所の判断

一  争点一について

1  被告川島町議会は、当該告示の日から一四日が経過すると、選挙人及び公職の候補者は当選の効力に関し異議を申し立てることができなくなり(公職選挙法二〇六条)、直接その当選の効力を争うことができなくなるが、前記争いのない事実等五記載のように、Aの繰上補充が告示された日から一四日以内に、その効力に関し異議が申し立てられたことはなく、その後、Aが川島町議会議員として活動していることから、本件除名処分が取り消されても、Aの川島町議会議員たる地位に変動を生じる余地はなく、したがって、議員定数との関係等から、原告が川島町議会議員たる地位を回復しえないとして、本件においては、訴えの利益が認められないと主張する。

2  しかしながら、本件除名処分が取り消されると、当事者たる行政庁である被告川島町議会や、関係行政庁である川島町選挙管理委員会は、取消判決に拘束されることになるが(行政事件訴訟法三三条一項)、同条項がいわゆる拘束力の制度を設けた趣旨は、当該処分が取り消されただけでは紛争の解決をもたらさないこともありうることから、取消判決の実効性を担保しようとするものであることからすると、被告川島町議会や川島町選挙管理委員会は、取消判決の拘束力により、判決の趣旨に従いこれを実現すべく行動すべき義務を負うことになる。

それ故、被告川島町議会が川島町選挙管理委員会に対して行った欠員通知は、本件除名処分が有効であることを前提とするものであるから、被告川島町議会は、取消判決の趣旨を実現すべく、右欠員通知を取り消すべきであり、また、川島町選挙管理委員会も、右欠員通知を前提にした、Aを当選人とする告示について同様の対応をとることが求められることになる。

3  なお、被告川島町議会の前記主張は、当選の効力に異議を申し立てることができなくなると、これに行政庁も拘束され、以後、取消、撤回ができなくなるという結論を前提としているが、これを是認することはできない。

なぜなら、行政は法律に基づいて行わなければならないところ、行政庁が自らなした処分に瑕疵が存することを発見・認識するに至ったにもかかわらず、これを放置しなければならないというのは、いわゆる不可変更力が生じているといった事情がないかぎり、相当ではないというべきである上、選挙には安定性・公定性が求められるものの、本件においては、いわゆる不可変更力が生じているとまではいえないからである。その理由は、次のとおりである。すなわち、公職選挙法は、同じく地方公共団体の議会の議員に欠員が生じた場合に行われる補欠選挙については、右補欠選挙を必要とするに至った選挙について選挙争訟又は当選争訟の異議の申出期間、審査の申立期間若しくは訴訟の出訴期間又は異議の申出に対する決定が確定しない間、審査の申立てに対する裁決が確定しない間若しくは訴訟が裁判所に係属している間は、これを行うことができないと規定されている(同法三四条三項)のに対し、繰上補充の場合にはそのような規定を設けていないことからすると、繰上補充を必要とするに至った選挙について選挙争訟等の異議申出期間等又は異議の申出に対する決定等が確定しない間であっても繰上補充により当選人を定めることは妨げられないと解され、後に選挙争訟等により当該選挙又は当選の効力が確定し、その結果繰上補充が無効となる場合も当然に想定されるところである。そして、その場合には、当該繰上補充による当選の効力については、法定の不服申立期間経過後であっても、これを無効にしうることを当然の前提としているものと解するほかない。そうすると、繰上補充が行われた本件において、いわゆる不可変更力が生じているとまではいえないからである。

4  よって、本件除名処分後にAが繰上補充されているとはいえ、本件除名処分が取り消されることによって、Aは川島町議会議員としての地位を失うことになり、原告はこれを回復しうることになるから、本件において、訴えの利益は認められる。

二  争点二について

1  争点二の1について

地方議会は、地方自治法や会議規則等に違反した議員に対し、公開の議場における戒告、公開の議場における陳謝、一定期間の出席停止、除名といった懲罰を科することができる(地方自治法一三四条、一三五条)。これは、地方公共団体の最高議決機関として自律的な法規範をもつ地方議会がその自律権に基づき、当該規範の実現を内部規律の問題として、地方議会の自治的措置に任せるというものであるから、懲罰を科すかどうか、また、いかなる懲罰を科するのかの当否については、地方議会の裁量事項として、裁判所は、地方議会の判断を尊重すべきである。

しかしながら、除名処分については、他の懲罰処分と異なり、住民の選挙によって選出された議員からその地位を喪失せしめるものであって、これにより、その者は以後議会での発言の機会が与えられなくなることから、もはや議会の内部規律の問題にとどまるものということはできず、司法審査の対象となり、除名処分に至る手続や、除名処分の原因となった事実認定に重大な誤りがある場合や、その原因となった事実に対し除名処分を科することが社会通念上著しく均衡を欠くと認められる場合においては、裁判所はこれを違法無効とすることができるものと解される。

2  争点二の2について

(一) 前記争いのない事実等四記載のように、I議員が提出した懲罰動議は、「解放同盟はえせ同和行為だ」との発言が差別発言にあたることを問題としているのに対し、懲罰特別委員会は「ふじ清掃株式会社について、阿波衛生社を比較対象に出して、ふじ清掃株式会社を有利に導く発言は不適切である。」ことをも、懲罰の事由としていることが認められる。

(二) ところで、動議の提出は、議案の提出とともに、議会に対する提案行為であるが、川島町議会会議規則を見るに、議案の提出について定めた一四条は、その二項において、「議員が議案を提出しようとするときは、その案をそなえ、理由を付け、所定の賛成者とともに連署して、議長に提出しなければならない。」としているのに対し、動議について定めた一六条は、「動議は、法又はこの規則において特別の規定がある場合を除くほか、他に一人以上の賛成者がなければ議題とすることができない。」とし、懲罰動議について定めた一〇九条も、「(一項)懲罰の動議は、文書をもって所定の発議者が連署して、議長に提出しなければならない。

(二項)前項の動議は、懲罰事犯があった日から起算して三日以内に提出しなければならない。」としているにすぎない。

このように、川島町議会会議規則が、懲罰動議を提出する際、文書によることを要求するものの、具体的な案や理由の付記については要求していないことからすると、当該議員に対する懲罰が動議提出文書に記載された内容や理由に基づかねばならないと解されるものではない。

また、提出期間が三日以内に制限されている趣旨は、議員としての身分保障にかんがみたものと解されるが、それ以上に懲罰事由についての主張制限とまでみるのは、その期間の短さからして相当ではない。

(三) そして、懲罰動議の提出によって直ちに懲罰が科されるものではなく、最終的に、懲罰の原因となった事由に対する弁明の機会が与えられていれば、手続保障の観点からしても、当該議員に特に不利益はない。

(四) そうすると、懲罰動議提出の際、いわゆる利益誘導発言が問題とされていなかったにもかかわらず、これが処分理由とされているとはいえ、平成一〇年一月一九日、臨時会において弁明の機会が原告に与えられていることからすると、このことをもって直ちに本件除名処分が違法無効となるものではない。

3  争点二の3について

(一) 川島町議会会議規則一〇一条が議会の品位を重んじなければならないと規定しているのは、議会での言論は出来るかぎり保障されてしかるべきであるが、その議論の対象となる事項は、地方公共団体の存立、運営にかかわる公の事項であり、その場も公の場所であることからして、それに相応する厳粛な雰囲気、威厳を保つ趣旨と解される。

ところで、議員は全体の奉仕者として、公の利益を図るべき責務を負うのであるから、議会での発言等によって、特定の者の利益に資することがないように注意すべきであり、これを怠った場合には右規則の趣旨に反することになるというべきである。しかしながら、特定の者の名をあげて質問することにより、その者に利益をもたらすことが予測できる場合であっても、質問の内容によっては、特定の者の名前を挙げて質問しなければ、その意図、趣旨が答弁者に明確に伝わらず、質問が功を奏さないことがあることは否定できず、そのような場合において、特定の者の名をあげて質問することが、ただちに右規則に反した不当な質問、発言であり、懲罰事由となると解するのは相当ではない。

したがって、右規則に反し懲罰の対象となる利益誘導発言とは、特定の者への利益誘導を直接の目的として行われた発言であることが明白なものにかぎると解するのが相当である。

(二) そこで、まず、前記争いのない事実等三記載の1及び5の発言につき、富士清掃への利益誘導を目的としてなされたことが明白に認められるのかどうかを検討する。

(1) 確かに、被告川島町議会が指摘するように、原告は、解放同盟L一族の不法な利権あさりや行政介入を解明し、これに癒着した町当局の責任を追求する目的で行ったというものの、発言内容をみると、阿波衛生社が受注を伸ばした経緯とLらの行動との関連についてはなんら言及しておらず、また、富士清掃の社長Oはかつて解放同盟川島支部長であり、現在は原告の支持者であることが認められるのであって、これらの事情に照らすと、原告主張の質問目的にも全く疑問がないわけではない。

(2) しかしながら、問題となっている質問内容(前記争いのない事実等三記載の1及び5)の文言をみてみるに、直接的には、富士清掃への発注を求める内容にはなっていない上、その後に、町外業者に発注すると川島町に税金が入ってこないことや、同和対策課職員Dの人事異動についての発言が続いていることが認められる。そして、前記争いのない事実等七記載のように、近時「町内業者育成の町の方針にもかかわらず、町外業者である阿波衛生社が川島町のし尿処理の四〇パーセント以上を受注するようになっている実情のほか、証拠(甲六四の1及び2、七〇の1ないし3、原告本人、被告代表者C)及び弁論の全趣旨によれば、一般質問の冒頭に行った三親等決議に関する質問についても、その経緯において、平成九年六月一九日、被告川島町議会産業建設委員会は、九月議会までに関係議員で協議を重ねていくこととしたが、同日二〇日に開催された総務委員会は、同年四月一〇日こだま会館(隣保館)において、解放同盟と行った行政交渉の内容を録音したテープで確認した上、六月議会で決議をすることとし、これを受けて、同年六月二四日、右旨決議されるに至り、この結果、それまで、川島町の公共工事を受注していたB議員の兄が経営するB工務店は、発注除外となったことが認められるのであって、他方において、原告主張の質問目的を裏づけるような事情も存するのである。

なお、被告川島町議会は、原告はOの依頼を受けその意向に基づいて質問を行ったと主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) 以上の事情を総合考慮すると、前述のような原告主張の質問目的にも一応の合理性があるといえ、原告の当該発言が、阿波衛生社への発注を減らして富士清掃の利益を図ろうとする目的のもとに行われたことが明白であるとまではいうことはできない。

それ故、原告の当該発言は、本件除名処分の理由とはなりえない。

(三) 次に、前記争いのない事実等三記載の2ないし4の発言につき、湯浅石油への利益誘導を目的としてなされたことが明白に認められるのかどうかを検討する(なお、懲罰特別委員会の審査報告書(甲三)を見ると、湯浅石油に関する発言は、直接、利益誘導発言であると判断した事由となっておらず、それ故、前記争いのない事実等三記載の2ないし4の発言を、処分理由として、本件訴訟において主張することの可否については疑問があるが、この点はさておき、一応判断しておく。)。

前記争いのない事実等三記載の2ないし4の質問内容をみると、文言的にも、追求の執拗さからも、湯浅石油からの納入を求めているものと受け取ることができるものであり、原告の当該発言には、湯浅石油への利益を図る目的があったのではないかとの疑いを挾まざるをえない。

しかしながら、他方において、原告は右目的を明確に否定していることや、前記争いのない事実等三記載のように、事前に質問事項を通告した上で質問していること、被告川島町議会が主張するような、原告が湯浅石油の意向を受けて質問を行ったといった事情を認めるに足りる証拠もないことを考慮すると、少なくとも原告に右目的があったことが明白であるとまではいえない。

それ故、原告の当該発言は、本件除名処分の理由とはなりえない。

4  争点二の4について

(一) 地方自治法一三二条にいう「無礼の言葉」とは、議員が自己の意見や批判の発表に必要な限度を超えて議員その他の関係者の正常な感情を反発する言葉を指すものであり、「えせ同和行為」とは、同和問題を口実として企業、行政機関等に不当な圧力をかけて利権を得ようとする行為をいうと解されている(甲二二)。

そして、解放同盟が同和問題の解消を目的とする団体であり、現に、その解消に貢献してきたことは、公知の事実であるから、原告の当該発言が解放同盟組織一般を指したものであれば、「無礼の言葉」の使用にあたることになる。

(二) そこで、前記争いのない事実等三記載の6の発言を検討するに、平成九年一二月川島町議会定例会会議録(甲一の1)によれば、原告の「解放同盟は、えせ同和行為じゃ。」との発言は、「川島町の住宅あたりの今建っちょる、これはいわば阿波衛生社の関連会社の土建業者、土木業者と、事業を取ってその後はすぐにみんな契約して回る。ほなから公の町の事業においてほやってして浄化槽したら、今度は関連会社が浄化槽の次の仕事も取ると。こういう危ないような回りになっとんです。もう一つこれね、これは問題外のことですけども、質問外のことですけど、ちょっと言わせてもらいますけども。ついでじゃから。その業者が今現在近久の墓地を造成しとる。な。ほしたらそれについては、主は請け負う。ほんで、今度のお墓の移転まで一括にせんかとういうて、同対課長に聞いたら、ね、その問題で人事異動があったような、それはけしからんこっちゃ。」という発言に続くものであって、唐突の感も否めず、その文言通り、解放同盟一般を指している発言と受け取られかねない側面がある。

(三) しかしながら、原告は、一般質問の冒頭において、前述のような経緯で決議されるに至った三親等決議の当否について質問している上、町外業者である阿波衛生社が受注を伸ばしたことについて質問するなかで、FやGの名前を挙げていること、前記争いのない事実等三記載の6でいう人事異動とは、Dの異動のことを指すところ、その理由となったとされる発言も、L工務店が請け負っていた事業現場でのものであること(被告代表者C)、原告が川島町議会の一般質問において、あえて解放同盟組織一般を非難する必要性も見当たらないこと、平成一〇年一月八日、解放同盟川島支部長であるKらから、「平成九年一二月議会において、原告が部落解放運動を中傷誹謗する差別発言があったことを聞いています。このことについて、町関係者をまじえ確認会をもちたい。」旨の通知を受けたC議長は、原告を含む町議会議員に対し、右確認会に出席するように通知し、平成一〇年一月二七日、川島町こだま会館において右確認会が開かれたことなどにかんがみると、原告の当該発言が川島町内における解放同盟の活動、すなわち、Lらの行状を指すものと解する余地も十分に存する。

そして、前記争いのない事実等八記載の事実や、証拠(甲三七の1、一三ないし一五)によって認められる、前記争いのない事実等七記載の競売入札妨害事件において、Lらは、県職員を鴨島町にあった解放同盟県連西南ブロック連絡協議会事務所に呼び出して、脇町土木事務所が発注した砂防事業等の指名競争入札で、太一興業に落札せようと計画して、最低制限価格を不正に操作させようと、三時間にもわたる軟禁状態で、脅し同然ともいえる圧力を加えていた事実なども考慮すると、Lらの行為が「えせ同和行為」と称されても致し方ない面もある。

(四) そうすると、原告の当該発言が、解放同盟組織一般を指したものであって、「無礼の言葉」の使用にあたるとまでは言い切ることはできない。また、前述の川島町議会会議規則一〇一条の趣旨に反するとまでもいえない。

それ故、原告の当該発言は、本件除名処分の理由とはなりえない。

第四  結論

以上の次第で、原告の請求には理由があり、本件除名処分は取り消されるべきである。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本久 裁判官 大西嘉彦 裁判官 齊藤顕)

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